2008/03/24(月)千葉県 境川 ~鋼矢板護岸の自然再生の試み~

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ロール設置前の状況


近年,低地の河川の多くは鋼矢板による護岸となってしまいました.時代背景を考慮するとそれも致し方のない面があるかと思います.しかし,鋼矢板護岸は水域と陸域とを分断してしまうだけではなく,工事終了後には水際の植生がほとんど消滅してしまう場合がほとんどです.

千葉県境川では,従来の鋼矢板護岸が改修され,美しい煉瓦づくりの護岸になりました.また,鋼矢板護岸の問題点でもあった,水際へのアプローチについても,複数ヶ所に船着き場が設けられ,水にふれることのできる高さまで降りることができるようになっています.

本事例では,このように改修された護岸に,景観形成と水際の自然再生,水質浄化および生物多様性の確保を目的として”植裁済みベストマンロール(植裁済み植生ロール)”が設置されました.

都市における河川は生物の生息空間(ビオトープ/ハビタット)を連続させる緑の回廊(エコロジカル・コリドー)として,その環境修復がとても大切ですが,鋼矢板護岸の場合その水際の緑化や自然再生は極めて困難な課題となっています.

   
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植栽済みベストマンロールの設置状況(左写真)と設置イメージ図(右).
植裁済みロールの規格はL=3mなので,1本あたり60kgとなります.フックを3~4ヶ所かけることで吊り上げることができます.


植裁済みベストマンロールは,植 物の生育基盤としてのベストマンロール(植生ロール)にあらかじめ植物が植裁され,半年~1年間育成されたもので,すなわち,植物とその生育基盤とが一体 となった製品となっています.ベストマンロール(植生ロール)は円筒形のポリプロピレンネットに高密度でヤシ繊維が充填されたもので,外側のポリプロピレ ンネットは結び目の無く強度の高いマルチフィラメントのものが採用されています.このネット利用して植裁済みベストマンロールを鋼矢板護岸に固定すること で,大規模な工事を行うことなしに,これまで困難であった鋼矢板護岸の水際の緑化や自然再生が可能となりました.

こうして,今回の事例の様に,垂直の護岸ではあるものの,緑豊かな水際と美しい煉瓦造りの護岸により非常に良好な景観が形成されました.水際の緑の中に は,これまで認められなかったセセリチョウの仲間やイトトンボの仲間が多く認められるようになりました.また,水域では,ロールから植物の根や地下茎が懸 垂し,水中に複雑な環境を形成しており,ハゼやエビの生息環境として機能しています.

流域全体からするととても小さな範囲ではありますが,できる部分から少しずつでも自然環境の修復を行うことが,とても大切な取り組みであると感じました.

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追伸) 鋼矢板護岸により分断されていたのは,水生生物ばかりでは無かったということに,気が付きました.境川の生き物の調べていたとき,採れた魚やエビをバケツの中に入れておきました.すると,近くの小学生が「あ,魚だ!」 と声をあげて集まってきました.はじめはバケツの中の濁った水に泳ぐ魚を覗いているだけでしたが,そのうちにバケツの中に手を突っ込み,気勢を上げながら 魚のつかみ取りを始めました.「バケツの底の方にはワニがいるからそのうちかみつかれるぞ」とおもしろ半分におどかしてみると,何かにさわったの噛みつか れたのと大はしゃぎになりました.こんな魚,この川にいくらでも泳いでいるのに捕まえたことがないのかと尋ねてみると,そのようなことはこれまで一度も無 かったとのことでした.確かに鋼矢板護岸でそれはかなり危険の伴うことなのかもしれません.5:00のチャイムできっかり帰宅の途についた彼らの後ろ姿を 眺めながら,子供たちは基本的には変わっていないけれど,彼らを取り巻く環境が昔とは大きく変わってしまったのだなぁとつくづく思いました(昔,昔と言っ ても,私はそんなに昔の人ではありませんのであしからず).

[木村保夫].

[2008年3月24日]