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<Topics!>チガヤ草原の創出

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チガヤ草原の創出01

岐阜県清水川の堤防法面に創出したチガヤ草原.植裁からおよそ3ヶ月後の状況.

 チガヤ(Imperata cylindrica)は河川堤防法面の芝にかわる植物として,様々な視点から注目されています.チガヤ草原には様々な植物の混生が可能であり,また,強靱な地下茎はしっかりと土壌を緊縛するため,生物多様性や法面保護の観点からとても有望です.

チガヤ草原の創出02
 愛知県木曽川のチガヤの自然群落.
全然関係ありませんが,右に写っている彼女は”ウリちゃん(笑)”といって,ドイツからインターンシップでエスペックミックに来ていました.数ヶ月間の 滞在期間中,事務所のある大口町でビオトープマップの作成を行いました.そのため,愛知県丹羽郡大口町は,いわゆるドイツ式のビオトープマップが実践され た数少ない日本の市町村でしょう(笑).で,彼女もチガヤの種子採取を体験しました.

 現在,チガヤ草原の創出に際しては種子の吹きつけや堀取り株の植裁が行われています.それぞれに利点があると思います.
種子の場合,大量の種子を使用することから,種子の採集に 多くの時間を費やします(大量に安価に入手できるとは行っても,外国産の種子は使用すべきではないでしょう).また,発芽には適した環境が必要であり,且 つ,群落が形成されるまでには数年の期間を要します.その間に,オオアレチノギクやセイタカアワダチソウなどの植物が定着する可能性もあります.一方,堀 取り株の場合は比較的短期間で群落が形成されるなど良好な結果が得られているようです.
さて,そうした中私たちは私たちの得意とする方法,即ち,[種子採集] => [播種] => [育成] => [現場への植裁]によりチガヤ草原を創出しました.この方法のメリットは,少量の種子 から多くの苗を生産することができることで,既存群落に対する負荷が極めて少ないと言うことです.また,苗をポット苗としてだけではなくチガヤマットな ど,使用しやすい形態で植裁することができるという利点もあります.

  

 ベストマンルートボール(BC06)+ベストマンネット(BT170)によるチガヤ草原の創出 

 上の写真は施工から僅か3ヶ月ほど経過した状況です.比較的短期間でチガヤ草原が創出されたことが分かります.チガヤ草原ができるまでを順を追ってみてみましょう.

チガヤ草原の創出10
写真1.岐阜県清水川.施工直後の状況. 2003年3月31日.
チガヤ草原の創出11  チガヤ草原の創出12 ルートボール(BC06)植物種:チガヤ
種子から育成させているため,地上部と地下部とのバランスが良く,活着率が高いのが特徴です.
また,ポット容器が必要ないため,現場でゴミを発生させません.
写真2.ベストマンルートボール

 写真1は施工直後の状況です.チガヤはベストマンルートボール(BC06 ヤシ繊維基盤ポット苗(φ6cm))によって植裁されました.ベストマンルートボールはヤシ繊維基盤を使用した植物苗です(写真2).植裁は16pot/㎡の割合で植裁されました.
その上にベストマンネット(BT170 ヤシ繊維性植生ネット)をかぶせています.ヤシ繊維性ネットはしばしば法面保護のために使用されますが,私たちは次の2点からこれを使用しています.
① 法面の浸食防止
② 雑草の発生防除
①の効果についてはおそらく直感的に分かると思いまがう,②の雑草の発生防除については「はて?」と思う人も多いと思います.植生ネットという名称がついているのに雑草の発生防除というのは一体どういうことなのでしょうか?
実は,土壌表面を植生ネットで覆うことにより,少なからず 光が遮られて土中の種子の発芽が抑制されます.また,ヤシ繊維はその初期の段階には保水性がほとんど無く表面は強く乾燥するため,飛来した種子もなかなか 発芽できない状況となります.もちろん,時間とともにこの効果は薄れていきますが,このちょっとした”時間”がとても大切です.

 

チガヤ草原の創出04
写真3.2003年5月20日の状況.
チガヤ草原の創出05
写真4.2003年7月3日の状況.

 チガヤの芽は細くとがっているため,編み目サイズが17mm程度であれば問題なく地上に突き出てきます.しばらくの雑草の発生が抑制されている間,植裁したチガヤが大きく成長し,空間を占有し,チガヤ草原が創出されます.
写真3は植裁からおよそ1ヶ月半の状況です.ネットの編み 目からチガヤの芽が出てきていることが分かります.また,雑草の発生も極めて少ないことがわかります.もし,ネットを敷設しなければ,あっという間に雑草 が生い茂っていたかもしれません.もちろん状況によりますが.
チガヤはこの頃ちょうど開花時期であり,植裁当年度からいくつかの植物で開花,結実が認められます.種子から育成させたベストマンルートボールが良好な苗であることが分かります.
写真4は植裁からおよそ3ヶ月後の状況です.ほぼチガヤの純群落が形成されました.また,この時点においてもセイタカアワダチソウやオオアレチノギクなどの荒れ地の雑草がほとんど侵入していないことが分かります.
今後,創出されたチガヤ草原を維持するためには一年に2~3回程度の草刈が必要となります.また,そうした過程のなかで多様な植物(願わくば在来種)が定着することを期待します.
さて,チガヤ群落の創出について良好な苗の使用と初期の雑草発生防除の観点から,ルートボール(BC06)とベストマンネット(BT170)を使用した例を見ていただきました.次に,この2つを1つの製品で行ってしまおうという方法について説明します.

 

 

チガヤマット(BPS250)によるチガヤ草原の創出

チガヤ草原の創出06

チガヤマット(BPS250)

 チガヤマット(BPS250)ととはその名の通り,チガヤのマットです.ただし,普通のマットとはちょっと違い,特にチガヤの地下茎について着目した製品です(上写真).

チガヤ草原の創出09
写真5.チガヤマット設置方法.
 
チガヤ草原の創出07
写真6.愛知県稗田川に設置したチガヤマットの状況.2003年5月1日.
 
チガヤ草原の創出08
写真7.愛知県稗田川.2003年7月5日の状況.チガヤ草原形成された.

 このチガヤマットを地面に設置して覆土します(写真5). その後,チガヤマットに縦横に伸びた地下茎から面的に芽が伸長し,チガヤ草原が形成されます.このときチガヤマットにかける覆土厚は2~3cm(状況によ り異なります)ですが,ヤシ繊維の上に乗っている土は極めて乾燥しやすい状態となり,雑草の発芽が抑制されます.一方,ヤシ繊維の裏側(接地面)は湿った 状態に保たれますので,植物体は生存します.
こうして,チガヤマット(BPS250)を使用するだけで,雑草の発生を抑制しながら,チガヤ草原を創出することができます(写真6,7).
しかし,実際には課題が無いわけではありません.この方法の場合,植裁深度が浅いわけですから,乾燥に弱いという弱点もあります.この課題に関しては技術開発により改善を行いつつあります.
思うに...
近年はようやく在来種が活用されるようになってきました. 日本にはさまざまな植物が自生しています.その中の,私たちの身の回りに普通に生育している植物を活用することがとても大切なことであると思います.チガ ヤにしても,外国から種子が入ってくることがあります.確かに値段を考えるととても安いため,現在の社会経済情勢においてはそういう選択がなされる場合も あるようです.
外国から輸入された植物は,たとえ同じ種類でも遺伝子が違うなどの問題があります.しかし,何よりも,私たちの身近に生育している種類なのに,わざわざ輸入するという考え方に根本的な問題があるように思います.[2003/08/06 木村]

カテゴリ:在来種による緑化



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