1993/03/01(月)神奈川県 いたち川 ~あの施工事例は今・・・~

神奈川県いたち川は,日本ではじめてベストマンシステムを設置した河川です.その当時,植生護岸に関する知識も少なく,手探り状態で製品を設置しました.1993年の設置から6年後の状態について確認し,そこに生じた問題点や改善点についてレポートしました.

神 奈川県横浜市を流れるいたち川は,都市河川の川づくりにおいて先進的な取り組みがなされている河川である.多自然型川づくりに思いを巡らせたとき真っ先に 名前のうかぶ河川の一つであり,1993年3月ベストマンシステムが日本で初めて採用された河川でもある.本レポートは設置当時から今日に至るまでに生じ たベストマンシステムに係わる問題点と,再整備後の現在の状況について記したものである.


ベストマンロール設置からの経過

181210_003.jpg

1993年3月.ロール設置直後の状況.

水際へのベストマンロール(植生ロール)の設置はロールの両側に杭丸太を打ち,ロールが移動しないように上部にも鳥居型に丸太を固定することによって行われ た.導入された植物はセキショウ,スゲ類,カンガレイ,ヒメガマ,サンカクイ,セリ,クレソン等であった.ベストマンロールの設置当初,ロールは水際部の 土留めとして機能し,周囲には植生が復元された.しかし,時間の経過と共に植栽した植物の一部はうまく生育せず,ベストマンロールからはヤシ繊維が徐々に 吸い出されるようになった.こうなると土留めとしての機能は無くなり,表土が流出しはじめ,1999年にはロール設置の効果はほとんど認められい状態にま でなっていた.

何が問題であったのか?

181210_004.jpg

7年を経過した後,植物が定着しなかったロール部分は流出し,止め杭だけが残ってしまった状況.

様々 な施工を経験する中で,そして多くの方々から貴重な意見を得る中で,最も大きな問題は導入植物種の選定ミスにあったと考えられる.ベストマンロールに使用 されているヤシ繊維は天然素材であり自然に分解されるものである.時間と共にロールが”へたる”のは当然の現象であった.今でこそ,なぜロールを設置する のかと問われれば,水際に”植生護岸”を形成するためである,と答えることができる.その際,将来的にロールに置き換わって護岸あるいは土留めの役割を果 たすのは植物である.このことから考えて,果たして当時導入した植物がいたち川において十分に生育可能な植物であったのか?強靱な根茎により植生護岸を形 成できる植物であったのか?と考察すると多くの反省点がみつかる.今日では様々なヤシ繊維製品が市場に多くで回っている.それらのキャッチフレーズは”天 然素材を使用し設置後は土に戻る”や,”自然にやさしい素材”などが多い.しかし,自然に戻ることと植生護岸をつくることは別次元の問題であろう.(記事 参照⇒ 放っておけば自然に植物が生えてくると思っていませんか.)

そして現在・・・

181210_005.jpg
ベストマンパレットにより修復した植生.植物はマコモとヨシ
 
現在,いたち川では横浜市をはじめとする関係者の継続的な努力により,事後調査や植生の修復が行われている.失われた植生の修復については,新たな視点から ベストマンシステムが採用された.今回は初期のベストマンロール設置時の反省から,あらかじめ植物が植栽育成されているベストマンパレット(植栽済み植生 マット)が採用された.植物種は植生護岸形成の観点からヨシとマコモとした.2000年7月時点で,これらの植物は良好に生育し,優れた景観を形成し,植 生護岸として機能している.いたち川からは本当に多くのことを学ぶことができた.これらのことを通して再確認したことは,ヤシ繊維素材はあくまでも植物を 生かすための補助的な材料であり,「主役は植物である」というこである.もしあのとき,という考えは良くないが,現在の技術水準であれば,私たちは,ヨシ あるいはマコモの植栽済みベストマンロールを提案していたであろう.


様々な事例を通して多くの知見を得ることができたことは,多くの関係者の努力に依るところが大きい.ベストマンシステムではこのような知見を多くのフィー ルドに反映させ,資材の販売で終わるのではなく,現場ごとに異なる問題や課題を解決する”水辺のバイオエンジニアリング”として植物を生かした活動を行っ ていきたい.

[木村保夫]

[1993年3月1日 ]
OK キャンセル 確認 その他