2002/04/01(月)岐阜県 基幹農業排水路における自然の再生 ~寺田川における試み~

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▲ 施工後3ヶ月の状況(2002年8月)


岐阜県関市寺田地内を流れる基幹農業排水路において水路の再自然化を行うための試験が実施されました.


農業排 水路は,水田の排水をよくするために,一般に深く掘り下げられ,且つ,水の流れを阻害しないようにコンクリート2面,あるいは3面張りとなることがほとん どです.以前は素堀の水路が至る所にあり,いわゆる”落とし”と呼ばれ,様々な生き物の生息空間として重要な役割を果たしていました.しかし,社会経済情 勢を背景に農業の効率化が重要な課題となると,それらの素堀の水路は全国からほとんど姿を消してしまいました.

排水路の本来の目的は”利水”であるため,その効率を最大限に発揮するために,あるいは施設の維持管理の労力をできるだけ削減するためには,水路の三面コンクリート化はある面では必要な作業であったのであると思います.


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▲ 施工前の状況(2002年4月).
しかし,時代の変化とともに,身近な自然として重要であった水田から生き物の姿が見えなくなったことに多くの人が危機感を感じる様になりました.循環型社会が求められる今日,農業は”水”や”空気”,そして”土壌”など,生態系の基礎となる要素とうまくつきあう必要がでてきました.即ち,生態系の環の中でうまく循環できる新しい農業が必要とされています.こうした中,地域の二次的自然の修復は今後の農業において非常に重要な取り組みとなるといえるでしょう.実際,平成14年に改正された土地改良法でも環境への配慮が取り込まれるなど,農業施設に対する考え方が大きく変わりつつあります.


一方で 技術的な課題もあります.農業排水路は速やかに排水を流下させなければなりません.そこに植生を生やすことは,その目的を阻害してしまう可能性があります.また,水位の変化も大きく,植物の種類によっては生育できない可能性もあります.この様な事について十分な検討が必要です.こうした中,岐阜県の寺田川において,二面張りの水路において,植生を復元する試みが行われました.


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← 植栽済みベストマンロール.

植生ロールにあらかじめ植物が植栽,育成されているので,設置直後から植物群落を形成します.




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↑アンカーボルトにて
ロールを固定
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↑置直後の状況
 


植生の復元には植栽済みベストマンロール(植栽済み植生ロール)を使用しました.ロールの固定はコンクリート壁にアンカーボルトを打つことによって行いました.これはベストマンロールに使用されているネットが強度の高いポリプロピレン無結節ネットによって実現される工法です.

植栽済みベストマンロールにはあらかじめ植物が植栽,育成されているで,設置直後から植物群落を形成する事ができます.今回はマコモという植物を導入してみました.

この様な方法で水路内に植生を復元させることにより次のような効果が期待されます.
① コンクリート壁の遮蔽により水辺の景観を形成する
② 大型の抽水植物により様々な生物が水域と陸域とを移動することができるようになる
③ 水質浄化の効果が期待できる.

一方で,最近の研究では,水路壁付近に植生を生やすことにより,水路中央部と水路脇で相対的な流速の差が生じます.この結果,植生部分に浮遊土砂がトラップされ,水路中心部に土砂が堆積することを防ぐことができる可能性が示唆されています.

この寺田川への試験的な植生の導入により様々な知見が得られることを期待しています.そして,生物が豊で且つ生産力のある農地の形成に一歩でも近づければ良いと思います ..

[山口勉]


[2002年4月1日]