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京都府 福田川総合流域防災工事 ~河川感潮域・汽水域におけるヨシ群落の再生~

福田川(水系)は京都府浅茂川漁港で日本海 に注ぐ二級河川で、流域の80%が山地で上流域にはゲンジボタルが生息し、下流域では緩やかな流れの川岸において見事なヨシ群落が至る所で見られます。し かしながら河口含めた下流域の網野市街地は昭和34年の伊勢湾台風や平成10年の集中豪雨等これまで幾度となく堤防決壊や溢水による浸水被害がもたらされ てきました。これを受けて平成17年から福田川とその支流新庄川の延長約2.5km区間において堤防の嵩上げ・強化及び河道の拡幅事業が進められていま す。河川整備の目標として掲げられたのは
「ふるさと網野の、美しく豊かな環境と、人々のくらしを守る川づくり」

改修前の現地風景① 改修前の現地風景② 改修前の現地風景③

という事で今回の舞台はいわゆる河川感潮域 いわゆる汽水域で、あらゆる水系のなかで最も特異で、かつ変化の激しい環境と言えます。日周的・月周的に水位や水中の塩分濃度が変化する事で、海洋と淡水 の複雑且つ独特な生物群を備える我が国における重要な生態系拠点の一つです。そしてその土台として重要な役割を果たす植生としてヨシが取り上げられ、その 再生の取組みも当該河川改修事業と併せて実施する事になりました。

カモメ カニの巣 ナマズ(地元の釣師さん)

ヨシ群落は塩性湿地における代表的な植生 で、淡水域でも汽水域でも群落を形成する能力を備える点では非常に数少ない植物種ということになります。ヨシ群落は汽水域の生態系の舞台として機能するば かりでなく、強健な根系により土壌を緊縛する事で出水や波浪・水位変動等による水際の土砂崩壊を防ぐ護岸機能を有する事が確認されています。
「ヨシなんて放っておけば生えてくる」・・・確かにそういった現場もあるのは事実ですが、多くの場合一旦破壊してしまったヨシ群落は容易には再生しませ ん。こと河川感潮域・汽水域においては上述したような独特なストレスを受けるためヨシの自然回復・定着は非常に困難と言えます。

現地近くのヨシの自然群落 生育地盤高の確認作業
試験施工実施(設置高を15cm単位で変化をつけて3条件・延長9mに渡って実施。)
試験施工実施後約3ヶ月経過後の状況(葉茎の緑量に明らかな差異が生じています)

そこで今回積極的なヨシ群落再生の仕掛けとして水際線に沿ってヨシの植栽済みベストマンロール(BR303P) が導入される事になりました。植栽済みベストマンロールは根系が厚さ30cm(φ30cm)に渡って既に発達しているため少々の水位変動に対しての耐性は 十分に備えており、同時に堤防法尻部の土留め材としても機能する事で様々な現場で活躍してきましたが、今回のような舞台つまり水位変動が激しく塩分の影響 を受けるような条件下においてはその設置高の判断が非常に重要となります。そのため、着工前の段階で土木事務所様とコンサルタント会社の方々と協議・調整 を重ね、現場から程近いヨシの自然群落の生育地盤高等の調査や計画地内数箇所における水中の塩分濃度測定(結果は0.2~1.2%)等を行なった上での設 置高を変えての試験施工を実施させていただく事になりました。写真の通りわずか15cmの基盤高の違いを設けただけですが、設置後約2ヶ月という期間でず いぶんとその生育には差異が生じました。この結果を受け最適な設置高でいざ本施工にのぞむ事が出来ました。
本施工時の様子(2007年3月) 福田川本流 新庄川

さて、いよいよ2007年3月から築堤工事と併せた植栽済みベストマンロールの設置工事が福田川本流及びその支流である新庄川においてほぼ同時期に開始されました施工方法については他事例で詳細紹介しておりますので割愛させていただきます)。時期的にまだヨシの地上部が枯死している状態です。最適設置高を求めた上での本施工と言ってもやはり河川感潮域という特殊な舞台であるため、施工直後の段階においては正直絶対の安心はまだ出来ません。
約半年経過(2007年10月) 福田川本流 新庄川

施工から約半年を経て草高こそ平均でまだ1m程度と自然群落の雰囲気とまではいきませんが、ヨシはしっかりと活着を果たし、ほとんどの個体が出穂するに至っています。
1年半経過(2008年10月) 福田川本流 新庄川
福田川(弁天大橋より撮影) 根固め材からも葉茎が展開 舞い降りたアオサギ

施工から約1年半が経過し、水際のヨシ帯はずいぶんと勢いが増してきました。施工当年度は直線的であったヨシ帯は地下茎伸長により根固め材や背後法面への不規則な拡がりを見せ始め、複雑で自然な水際線が形成されつつあります。

2008年10月7日

河道拡幅・築堤工の進捗に伴ない植栽済みベストマンロールの設置工事は現在(2008年10月)も継続して実施されています。この福田川・新庄川において河川感潮域・汽水域ならではの豊かな生態系と自然景観が再生され保全されていく事を期待しながら、引き続き私達は現場追跡を行なっていきます。

≪現況調査 2008年10月7日≫※施工済み区間計10地点において実施

調査結果:草  高 0.9~1.8m
生育密度 120~700shoot/㎡
茎  径 1.3~2.6mm

≪自然群落調査≫※新庄川合流部下流にて

調査結果:平均草高 1.5m
生育密度 210shoot/㎡
平均茎径 2.9mm

≪種子採集作業≫ 福田川本流及び近隣の自然群落にて平成17年より継続実施

下の写真はいつも現場へ向かう際に通る景色の1コマです。「こころの故郷の風景がここにもひとつ・・・」、この地で育った訳ではないのに、そんな気分にさせてくれる空気が漂っていました。

 

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