ホーム 特集 在来種による堤防法面緑化の現状と課題 ~ 芝・チガヤ・メヒシバ ~

在来種による堤防法面緑化の現状と課題 ~ 芝・チガヤ・メヒシバ ~

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002在来種で緑化ポータルを見る > 在来種による緑化を見る > 今日,堤防法面の緑化には大きく分けると2つの課題があります.一つは維持管理コストを低減すること.もう一つは在来種を用いることです.前者については昨今の社会経済情勢をみれば理由は分かると思います.後者は生物多様性国家戦略や外来生物法に基づく施策となっています. これまで堤防法面緑化は主に張芝で行われてきました.これは堤防法面の早期緑化が可能で,初期の侵食防止対策には十分な効果を発揮しており,さらに,施工コストも \1300/㎡~\1500/㎡と安価であるなど,優れた工法であったといえます.しかし,最大の問題は1年間に4~5回程度刈り取りを行わなければ維持できないということにあります.当然,維持管理はランニングコストとして継続して発生するものですから,これはできるだけ抑えたい訳です.そのため,年間の刈り取り回数を1年間に2~3回に減らすと,芝から他の植物に遷移してしまいます.ではどんな植物に遷移するのでしょうか.その土地の気候や土壌条件にも依存しますので,一概には言えませんが,こうした状況において優占する植物の代表が在来種であるチガヤ(Imperata cylindrica)です.チガヤが堤防法面緑化植物として優れていることは,多くの研究者による調査によって明らかにされています.その他にも優占する種類がありますが,代表的な植物はネズミムギ類やセイバンモロコシなどの外来種があげられます.ネズミムギ類は家畜の牧草として利用されるなど産業において重要な植物である一方,花粉症の原因となったり,在来生態系に対して著しい影響を及ぼすなどの問題も生じています.

外来種対策について見る > 張芝を行なわず種子の吹きつけや種子付きの植生シートを設置する現場もあります.これらの工法は張芝工の1/10~1/5程度の価格であるため,特に予算が確保できない場合には多様されるようです.この場合の問題は使用されている種子で,これまではトールフェスク(オニウシノケグサ)やケンタッキーブルーグラス(ナガハグサ)など,発芽率が高く初期成長が早い外来種が使用されてきました.今日では,外来生物法や生物多様性国家戦略により,在来種の種子を用いることが推奨されており,多くの現場でチガヤの種子吹付けが試みられています.その結果,7月頃の吹き付けで良好な結果が得られています.しかし実際の河川工事の最盛期である2~3月に行われた吹き付けではほとんど成果が上がっていないのが現状です.同様に,ノシバについても現場での発芽率の低さが課題となっています.こうした中,ギョウギシバの場合は良好な結果が得られています.ただ,そのほとんどが同種の外国からの輸入でバミューダグラスであると思われるため,同種の外国産の植物の利用はさらなる撹乱の原因となることが懸念されているようです. 前置きが長くなりましたが,日本の環境条件下ではチガヤは”維持緑化”に対しては非常に優良な植物といえますが,その生態的特性はどちらかというとストレス耐性種の傾向があるようで,早期緑化に適した撹乱依存種ではないといえます.この生態的特性はノシバのそれとかなり共通しているといえます.両者の違いはストレス耐性の程度であるといえるかもしれません.結論から言えば,チガヤによる早期緑化にはより大型の植物体,つまり,張芝状の植物体が必要であるということです.これが,チガヤマットが開発された背景になります.

チガヤマットについて見る > では,法面の種子による早期緑化は全て張芝かガヤマットになるのかというとそういうわけではありません.現在のニーズから考えると,チガヤは維持管理コストの削減に対して効果的であるということですが,イニシアルコストは現時点では張芝よりもやや高いものとなっています(将来的にはかなり低下すると考えられますが).法面の緑化には大面積の早期緑化というニーズもあります.ですから,特にコスト面でチガヤマットでは解決できない課題が生じているわけです.ここでキーワードは”在来種”の”撹乱依存種”ということです.そこで私たちが目を付けたのは,メヒシバやエノコログサなど,日本全国どこにでも生育しているいわゆる雑草です.そもそも,そういう植物は畑地や水田の畦畔に出現する種類です.どちらかというと,厄介ものの除草対象植物でしかありませんでした.まさに,種子の発芽率が高く初期成長の大きい在来の撹乱依存種です.そこで,私たちはメヒシバの種子による植生シートと植生土嚢のを開発し販売することにしました.ちょっと考えると,なんだかそこここに生えているもので,それが商品になるというのですから,かなり面白い話ですね.メヒシバは日本全国に分布する植物ですが,地域ににおける変異がどの程度あるのか,私たちは現時点ではまだ調査しておりません.ただ,多くの要望では,できるだけ近い場所の植物を使いたいということです(陸上植物ですので水系単位ではないですね).そうしたニーズに応えられえるように,現地の種子を用いたシートの生産に対応することとしました.種子については私たちが採集しても良いですし,種子をご提供いただいてもかまいません.外来種の種子を用いた通常の植生シートよりは若干割高となりますが対応させていただきたいと思います.

ワラメヒシバについて見る > 余談ではありますが,様々な人から「遺伝子が違う」という話をよく聞くようになりました.ただ,どうも人間のDNA鑑定のような1個体に対する場合と,個体の集まりである植物の地域個体群の場合とが混同されてる点が気になっています.地域個体群の場合における「遺伝子が…」という場合は,様々な遺伝子の集合体であるわけで,地域集団間ではそ頻度が問題になってくるわけです(中には地域個体群にユニークな遺伝子もありますが).ですから,例えば,遺伝子aについては,地域個体群1では20%で,地域個体群2では50%,地域個体群3で100%という具合です.それが,複数の遺伝子ということになりますから,ちょっと考えただけでも複雑な話になります.あくまでも一般論ですが,風媒花で風散布種子を行う植物では,集団内変異が大きく,集団間変異が小さくなる,つまりある地域内での遺伝子は多様であるが,実際それを他の地域とくらべるとそれほど地域ごとの違いは出てこないという場合が多いようです.生物多様性や遺伝子の話になると,どうしても研究対象が絶滅危惧生物に偏る傾向にあります.それはそれで重要なのですが,そこで得られた傾向をそのまま荒地雑草にまで広げて適用できるものかどうかについてはもう少し検討の余地があるのかもしれません.メヒシバについても実際のところは分かりません.私が知らないだけで,実際には多くの研究成果があるのかもしれませんので,もう少し勉強してみようかと思います.何か分かったらまた報告します. (2014/11/17 木村保夫)

カテゴリ:在来種による緑化



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