2002/04/01(月)岐阜県 基幹農業排水路における自然の再生 ~寺田川における試み~
岐阜県関市寺田地内を流れる基幹農業排水路において水路の再自然化を行うための試験が実施されました.
農業排 水路は,水田の排水をよくするために,一般に深く掘り下げられ,且つ,水の流れを阻害しないようにコンクリート2面,あるいは3面張りとなることがほとん どです.以前は素堀の水路が至る所にあり,いわゆる”落とし”と呼ばれ,様々な生き物の生息空間として重要な役割を果たしていました.しかし,社会経済情 勢を背景に農業の効率化が重要な課題となると,それらの素堀の水路は全国からほとんど姿を消してしまいました.
排水路の本来の目的は”利水”であるため,その効率を最大限に発揮するために,あるいは施設の維持管理の労力をできるだけ削減するためには,水路の三面コンクリート化はある面では必要な作業であったのであると思います.
一方で 技術的な課題もあります.農業排水路は速やかに排水を流下させなければなりません.そこに植生を生やすことは,その目的を阻害してしまう可能性があります.また,水位の変化も大きく,植物の種類によっては生育できない可能性もあります.この様な事について十分な検討が必要です.こうした中,岐阜県の寺田川において,二面張りの水路において,植生を復元する試みが行われました.
植生ロールにあらかじめ植物が植栽,育成されているので,設置直後から植物群落を形成します.
ロールを固定
植生の復元には植栽済みベストマンロール(植栽済み植生ロール)を使用しました.ロールの固定はコンクリート壁にアンカーボルトを打つことによって行いました.これはベストマンロールに使用されているネットが強度の高いポリプロピレン無結節ネットによって実現される工法です.
植栽済みベストマンロールにはあらかじめ植物が植栽,育成されているで,設置直後から植物群落を形成する事ができます.今回はマコモという植物を導入してみました.
この様な方法で水路内に植生を復元させることにより次のような効果が期待されます.
① コンクリート壁の遮蔽により水辺の景観を形成する
② 大型の抽水植物により様々な生物が水域と陸域とを移動することができるようになる
③ 水質浄化の効果が期待できる.
一方で,最近の研究では,水路壁付近に植生を生やすことにより,水路中央部と水路脇で相対的な流速の差が生じます.この結果,植生部分に浮遊土砂がトラップされ,水路中心部に土砂が堆積することを防ぐことができる可能性が示唆されています.
この寺田川への試験的な植生の導入により様々な知見が得られることを期待しています.そして,生物が豊で且つ生産力のある農地の形成に一歩でも近づければ良いと思います ..
[山口勉]
[2002年4月1日]