2004/06/01(火)千葉県 黒部川

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[背景とその課題]
 黒部川は利根川の下流に位置する支流で,その水は飲料水や農業用水に使用されています.黒部川は低地に位置しているため,流速が遅く,水質汚濁が問題と なっていました.黒部川は両岸が鋼矢板護岸であるため,その当時は水際に水生植物群落はほとんど存在していませんでした.そこで,黒部川では水生植物群落 による水質浄化が検討されました.課題として,鋼矢板護岸の水際に水生植物群落を植栽するための立地を創出すること,そして効果的に水生植物群落を成立さ せることでした(写真1).

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写真1 当時の黒部川


[課題に対する解決策]
 鋼矢板護岸の水際に湿地を創出するために,護岸の前面に連杭工が行われそこに大型土嚢を投入し,その上に客土をおこないました.植物の導入についてはヨシ (Phragmites australis)があらかじめ植栽された植栽済みベストマンロール(植栽済み植生ロール)が用いられました.連杭工のところどころには開口部が設けら れ,そこから水を取り入れてヨシ群落で浄化することとしています(写真2).平水時の水深はおよそ50cmに設定されていたため,植栽済みベストマンロー ルを設置した場合,その天端からの水深は20cmとなる設計でした.設置は2004年2月~3月にかけて行われました.2004年の5月には一斉にヨシが 生育するはずでした.しかし,植物はまったく成長していませんでした.施工時にはほとんど問題は見当たりませんでしたが,見落としていた何らかの課題が存 在していたようです.

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写真2 開口部の設けられた連杭工

[新たな課題]
 よく観察してみると,導入したヨシは成長していますが,なんらかの生物によって食べられた痕跡らしきものをみつけることができました.そして,僅かに生育 しているヨシは連杭の間にのみ生育していました(写真3).その後文献調査を行うと黒部川には草食性のソウギョが多数生息していることが明らかになりまし た(写真4).一方,設置水深を確認してみると,当初計画ではロールの天端からの水深は20cmであったが,実際には最大で50cm程度にまで達してい た.ロールの天端高と植物の生育をみてみると,天端からの水深が30cmを境にそれよりも深くなる場所ではヨシの生育が悪化する傾向が認められました.施 工には問題がありませんでしたから,その後,客土が圧密沈下したことが原因と考えられます.そこで,再度試験植栽を試み,ロールの天端高を水深±0cmと しました.その結果,僅かな期間で導入したヨシは極めて良好に生育することが明らかとなりました(写真5,6).一般にヨシの生育限界は水深1mである旨 が植物図鑑等に示されていますが,実際には生育限界水深と植栽限界水深とはことなります.また,生育限界水深についても,その環境の物理的環境要因によっ て大きく左右されます.黒部川におけるそれは水深20cm前後と考えられます. こうした観察から,計画段階では明らかとされなかった課題にソウギョによ る食害と植栽基盤の圧密沈下があることが分かりました.



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写真3 ソウギョによる食害を受けたヨシ
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写真4 ソウギョ


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写真5 ヨシ試験植栽(2004年6月)
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写真6 ヨシ植栽から3ヶ月後(2004年9月)


[新たな課題に対する解決策]
 新たな課題が明らかになったため,これらの課題を解決するための対策の検討を行いました.ソウギョによる食害と圧密沈下による基盤の低下に伴う植栽済みベ ストマンロールの沈下について,当初は魚類侵入防止ネットの設置など個々に検討を行いましたが,波浪によるネットの破損などにより十分な効果を得ることが できませんでした.しかし,次の方法で一括して状況の改善を行うことができました.まず,ロールが基盤の沈下とともに沈下しないように連杭に固定する対策 をとりました.従来の固定方法では,基盤の沈下とともに,ロールが転倒してしまう状況もありましたので,先付けした鉄筋杭をロールを貫通させて杭に打ち込 み転倒と沈下が生じないような対策をとりました(写真7).これは,地元の施工業者さんのアイディアにより実行された方法です.また,客土の圧密沈下につ いては,ある程度の沈下を見込んで客土量を多くしロールの半分くらいが土に埋もれる程度にしました.こうして水深を浅くしたことにより大型魚類であるソウ ギョは侵入することができなくなりました.発注者の皆さんや地元の施工業者さん何度も協議を繰り返しましたが,その結果2007年8月時点では非常に良好 なヨシ群落が創出することができました(写真8).生態系の修復は思ったよりも難しい課題が数多く存在しています.従来のように数値計算による計画により 画一的に実施できるものではありません.こうした試行錯誤の中,最終的に良好なヨシ群落を創出することができた黒部川は貴重な成功事例と言えるでしょう.


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写真7 転倒・沈下防止の杭(○)
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写真8 2007年8月現在のヨシ群落

[木村保夫]

[2004年6月1日]
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